トゥンバオ天国

1999年の1月から1年間、月刊「ジャズライフ』誌に連載されたものを一部手直しして掲載しています。

(7月号)シンコペーションは使いよう 

みなさんこんにちは。この原稿が出る頃にはもう梅雨が始まっているかも知れませんね。そんな時は「サルサ」でも聴いてじめじめした気持ちを吹き飛ばしましょう!読者のみなさんもだいぶ「モントゥーノ、コロ、カンタ、トゥンバオ」と言ったサルサ特有の用語をおぼえたのではないでしょうか?(初めて聞いたと言う人は即、バックナンバーをチェック!)先月に引き続き、今月もモントゥーノにおけるベースのトゥンバオのアプローチについてお話ししてみたいと思います。

モントゥーノセクションで一番力を発揮するのはコロです。コロのメロディーラインとリズムがモントゥーノのクオリティーを左右します。そこで今日はコロのメロディー、リズムに対していろいろなトゥンバオ考えてみる事にしましょう。まず最初にコロのメロディーとそれに付けるコードを考えてみましょう。とりあえず譜例ー1に僕が考えたコロを載せてみました。メロディーラインとコードしかありませんがよかったらみなさんで歌詞を乗せて下さい。これだけではサルサだかなんだか判断出来ないので、リズムをならしてみましょう。出来ればコンガが鳴るといいんですが、まわりに叩ける人がいなければ、サルサのCDを参考に打ち込んで下さい。 それでは始めましょう。リズム、コード、コロのメロディーを鳴らしながら、最初はパターンAを弾いてみてください。トゥンバオの基本を忠実にまもったパターンです。どこの小節でも2拍目の裏と4拍目が必ずシンコペーションしています。基本トゥンバオが忠実に再現されている点では非常にサルサらしいと言えます。ただし、実際の楽曲の中では基本トゥンバオだけで構成されているものはありません。特にサルサの場合、コロ、カンタの他にブラスセクション、リズムセクションが複雑に絡んでくるので、ベースのトゥンバオもその場に応じて臨機応変にシンコペーションの位置を変えたりしています。

ex

パターンAについて言えば、コロやリズムのことはいっさい考慮に入れずに、とにかく基本のトゥンバオを弾くことに専念しています。つまり、それぞれが自分のパートを好きにやっていると言ってもいいでしょう。このことをふまえて次にパターンBを弾いてみましょう。このパターンの最大の特徴は、コロのリズムを考慮したトゥンバオになっているところです。パターンAでは各小節の2拍目裏で必ずシンコペーションしてましたが、パターンBでは1小節目、3小節目でコロのリズムに合わせてシンコペーションをやめています。小節と小節をつなぐシンコペーションも所々4拍目裏の8分音符になっていたり、シンコペーションをしなかったりしています。コロのラインを考慮したことで、曲としてのまとまりが出てきますが、逆にパターンAのような終わりのない疾走感はうすれてしまいます。

では次にパターンCを弾いてみて下さい。これはトゥンバオをフレーズ化したもので、特に最近のキューバやニューヨークではかなり流行っている手法です。トゥンバオのリズム、メロディーともに複雑になっています。さすがにこのパターンで演奏するためには、他のA,Bのパターンよりも細かいアレンジが必要になります。バスドラのタイミングやピアノのトゥンバオなどを綿密に打ち合わせしないと、ぐちゃぐちゃになる可能性が非常に大きくなります。今回はベースのトゥンバオだけなので、曲全体の印象を掴むことは出来ませんが、少なくともコロを考慮するかしないかと言うことだけで、モントゥーノの性格は大きく変わります。もちろん、正解はありません。どんなトゥンバオにするかは、すべてプレーヤーとアレンジャーの気持ち次第と言うことです。そう思いながらサルサのCDを聴くと、どの曲も「なるほど良くできてるなあ」とあらためて感心します。それでは、来月までご機嫌よう!

(8月号)サルサの匂い

みなさんこんにちは。いよいよ本格的に暑くなってまいりました。ビールを片手にサルサで踊るには、もってこいの季節です。やっぱり「暑いときには熱いサルサ」を踊るのが一番!かな?さて今日は、これまでに読者の方からいただいた、いくつかの質問について紙面のゆるす限りお答えしていきたいと思います。

つい最近、複数の読者の方から偶然にも同じ様な内容の質問を受けました。その質問とは「モントゥーノと言うのは、サルサのピアノの奏法のことを言うのではないのか?」というものでした。以前にも似たような質問を受けたことがありますが、ということは潜在的に同じ様な疑問を持っている方が、かなりの割合でいるという予想がつきます。この連載の中でも何度か出てきていますが、「モントゥーノ」と言うのはサルサの楽曲の中で、コロ(コーラス)とカンタ(ボーカルのアドリブ)が繰り返し登場する場面の事で、サルサにおいて一番盛り上がる場所、いわゆるポップスで言うところの「サビ」の部分です。これ以外の意味で「モントゥーノ」という言葉を使うことはありません。では、なぜこのような誤解が生まれたのでしょうか? 実を言うと、15年ほど前までは、僕たち自身もサルサのピアノのパターンのことをモントゥーノと言っていました。その頃はサルサについての情報がほとんど無くて、あるパーカッションメーカーの出した教則レコードを、バイブルのように聴いていました。その中に「ソンモントゥーノ」と言う題で、譜例ー1の様なピアノとベースのパーターンが載っていました。誰しもが「こういうパターンをソンモントゥーノと言うのか」と思いこみ、そのうちに「ソン」が取れて、ただ「モントゥーノ」と呼ぶようになりました。少々説明不足だったのです。この連載の読者の方はすでにご存じだと思いますが、譜例ー1の様なシンコペーションの組み合わせで出来ている、サルサ特有のピアノやベースのパターンのことは『トゥンバオ』と言います。つまりこの教則レコードに載っていた譜例について、正確に説明するならば、「ソンモントゥーノでよく使われるピアノとベースのトゥンバオパターンの例」と言うことになります。

ex

ピアノについて言えば、普通 のサルサの場合、Aメロ,Bメロはトゥンバオを弾かずに白玉を中心か、もしくはちょっとトゥンバオを匂わせるくらいにプレイして、モントゥーノになったら思いっきりトゥンバオを弾きまくる、と言うのがよくあるパターンです。それだけピアノのトゥンバオは影響力と 「匂い」を持っているということです。また、モントゥーノでは必ずピアノがトゥンバオを弾くと言うことも、ピアノの奏法自体をモントゥーノと呼ぶと言うような、間違った認識を与える原因になってしまったのでしょう。 ついでに、 先ほどから出てきている「ソンモントゥーノ」について説明しておきます。 ソンモントゥーノとは、キューバの「ソン」から派生したもので、もともとギターの弾き語りに打楽器1つといったシンプルな形態だったものに、コロの合いの手が入りモントゥーノがくっついた形態の曲のことを言います。サルサもAメロ,Bメロがあって、モントゥーノに行くと言う形からすれば「ソンモントゥーノ」ということになります。逆に言えば1970年代に、移民とともにキューバのソンモントゥーノがニューヨークに行って、音楽的に様々なジャンルの影響を受けて洗練されたものを「サルサ」と名付けたのです。形式的に見ればどちらも同じものなのですが、それぞれのお国で「呼び方」にはこだわりがあるようです。たくさんの質問にお答えしたかったのですが、あっという間に紙面が無くなってしまいました。この続きはまた次回ということで....。ではまた!

(9月号)ジャズなラテンーその1ー

みなさんこんにちは。むし暑い日が続く今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか?日本の夏は湿気が多いのでコンガの鳴りが悪くてたまりません。何とかしてほしい...。さて、今月は先月に引き続き、読者の皆さまからの質問にお答えしたいと思います。最近では地方に演奏に行ったときなどに、「トゥンバオ天国読んでますよ」などと突然言われることも多く、サルサやラテンジャズに関心のある方が結構多いのに驚かされます。そんな方々からの質問の中で一番多かったのがやはり「トゥンバオのバリエーションとその使い分け方」についてです。具体的には、「サルサとラテンジャズではトゥンバオの奏法が変わるのか?」とか「コードを見ながらトゥンバオを弾く方法は?」と言ったものです。

そこで、最初に「サルサとラテンジャズ」についてお話しします。サルサバンドの基本的な構成は、ピアノ、ベース、ブラスセクション、パーカッション(コンガ、ボンゴ、ティンバレス)、それに歌手(カンタ、コロ)です。ほとんど90%以上がこのスタイルです。これだけ多くの楽器があるわけですから、それぞれが勝手にやりたい放題やっていたら当然めちゃくちゃになってしまいます。そうならないために、まずきちんとアレンジされている必要があります。それぞれの楽器が一番効果的に聞こえるようにアレンジされていて、最大の山場であるモントゥーノに向かってじわじわと盛り上がって行きます。そしてモントゥーノになったら一気に絶頂に達するのです。さらにサルサの歌詞の内容は恋愛はもちろんのこと日常の出来事や社会風刺など、生活に密着したものがほとんどなので、歌詞に酔うこともできる のです。そして、サルサの最大の特徴は「ダンス音楽」であると言うことです。その点がラテンジャズと最も違うところです。

トゥンバオと言う観点から見れば、サルサのトゥンバオは人々が踊れるように、ひたすら決まったフレーズを繰り返す事に意義があり、モントゥーノセクションではとにかく、同じトゥンバオを延々と弾きまくり、観客を陶酔させていきます。これはまさにディスコサウンドと同じ「繰り返しの美学」と言えるでしょう。それとは対照的にラテンジャズではサルサ同様トゥンバオを基本に展開していく事には変わりないのですが、ほとんどの場合トゥンバオのパターン自体に決まったパターンはありません。また、モントゥーノが存在しない点もサルサと全く違うところです。(ラテンジャズの場合は、ほとんどが歌のないインストゥルメンタルなので、当たり前ですが...。)

ではラテンジャズの場合、どのように曲が展開していくのでしょうか?基本フォーマットは普通のスタンダードジャズと同じように、テーマがあって次にアドリブパートが来て、再びテーマに戻って終わるというパターンがほとんどです。スタンダードナンバーをラテンジャズにアレンジしてやることが多いのも、同じフォーマットで演奏出来るからです。つまり曲を知っていればすぐに出来るわけで、いわゆるセッション性が非常に高い点がジャズの面白さなのです。ジャズピアノやジャズのウォーキングベースのことを考えて見て下さい。同じ曲でもコーラスごとにコードの押さえ方も違うし、ベースラインも違ってきます。これはまさにプレーヤーの感性とセンスにかかっている訳ですが、ラテンジャズにおいてもこれと全く同じ事が言えます。ラテンジャズの中で出てくるトゥンバオは、プレーヤーがその場で考えながら作り、時にはソリストの盛り上がりに応じてどんどん展開していきます。当然アドリブも回ってきます。自由性と言う観点から見ればまさにジャズと同じです。ただ一つ4ビートと違う所は、リズムにシンコペーション(トゥンバオ)を多用していることです。試しに、あるコード進行でサルサ風のトゥンバオとラテンジャズ風のトゥンバオを作ってみたので、比べてみて下さい。

ex

もちろんこれが全てではありませんので、自分で研究してみて下さい。これをふまえて、次回はラテンジャズのバリエーションについて考察したいと思います。 ではまた!

facebook
mixi
chevere

伊藤寛康がお送りするラテン系音楽情報番組「VIVA LA MUSICA!」<fmたちかわ>で毎週土曜日21時から絶賛放送中!こちらをクリックするとリアルタイムで放送が聴けます。
放送を聞くspeaker

FM38